世界で初めてニュートリノの観測に成功し、ノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊氏はある講演で次のように話しています。
「研究者とはわからないことがどこにあるのかを知っている人のことだ。」
この言葉にはどのような意味があるのでしょうか。
たとえば、「きれいな小川を見に行きたい」と考えたとします。どの道を通るのか、その途中におもしろそうな場所はないか。ほかに興味深い場所はあるかなど、さまざまなことをイメージしながら 旅行のプランを練っていき、自分だけのドライブコースを思い描きます。さて、このとき手には何を持っているでしょうか。それはおそらく「地図」だと思います。
科学の世界も同じです。現在の研究者たちはこの瞬間にも、人類に利益をもたらす全く新たなものを作り出そうと、実験や観察、そして考察を繰り返し、研究を重ねています。その際、何の実験を行うべきか、何を観察すればよいのか、そこから得られたデータから何を得るのかなど、常にヒントを探しまわりながら科学の世界を縦横無尽に駆けめぐっているのです。そしてその時、手に持っているものはもちろん、科学の世界を巡り歩くための「地図」です。
この科学者が頭の中で思い描いている「地図」こそが、中学理科の内容にあたるのです。中学内容は、現代の科学の全体像といっても過言ではありません。この地図があるからこそ、身のまわりで起こる現象が科学の世界ではどの分野に分類されるのか、どのように説明できるのか、他の現象とのつながりや規則性はないのかなどが容易にイメージでき、さらに深く物事をとらえることができるのです。
立志館の理科は、この「科学の世界地図」をしっかりとイメージできる力を養うことを第一の目標としています。
1年生の授業では、プロジェクター(電子黒板)を利用して、学習する内容にまつわる写真や実験動画、アニメーションなどを、理解を促すために使用しています。この形態の授業を立志館では「映像授業」と呼んでいます。
授業で映像をみせる意義はとても大きいです。
例えば、火山の内容では、石英の結晶(水晶)の写真一枚をみせるだけで授業が成立します。生徒は目を輝かせながら、何でできているのか、大きさはどれくらいか、どこでとれるのかなど、好奇心旺盛に自分から学びを始めてくれます。
他にも化学の授業では、鉄と硫黄を混ぜて加熱すると、加熱をやめても反応が続き硫化鉄ができることを学習しますが、実際に映像を見てみると、はじめはなかなか変化がないが途中からすごい速さで反応が進んでいくことや、真っ赤な球状のものがみるみる反応していないところを侵食していくことなど、言葉では表現できない迫力や変化の奥深さまで伝わり、生徒たちは固唾をのんで映像に見入っています。生徒にとっては、単なる暗記の内容ではなくなり、化学に関する新たな興味や関心も生まれてきているのです。
さらに、映像やアニメーションを利用することで理解が早まるので、練習問題の時間もより多く確保できるようになります。
上記のように、立志館ゼミナールでは、単に結論や公式だけを伝えることはありません。時には生徒がすでに知っている知識を引き出すための質問、他の分野とのつながりを意識させる問題提起、現代の科学技術へ利用されている事例などを織り交ぜながら授業を展開しています。その結果、知的好奇心をくすぐる参加型の授業が可能となり、生徒自身が身につけた豊富な知識を使って考察し、そして新しい問題を見つけ、挑戦していくためのエネルギーを生み出せるようになるのです。
小柴氏の言葉には、これから理系の道を志す若者たちへのメッセージが込められているのかもしれませんね。